2018年9月6日木曜日

チュービー作戦

鍵が行方不明。
詳細は以下のようになる。

バイクを停車させてエンジンを切る
キーを使ってヘルメットホルダーのロックを解除
このあと鍵の行方は記憶していない。
トイレに行って戻ってきて雨具を脱いで出発するかと思ったら鍵がなかった。
ヘルメットホルダーに付けっぱなしにしていたか、それともどこかにしまったのか。
それは定かではない。
現実は鍵がないということであり、鍵がなければオートバイは走り出せないということ。


結局数十分ほど探し回り、ないという結論に達した。
あらゆるポケットと隙間を探し回り、トイレの個室で全裸になってみたが見当たらなかった。
地面を凝視してバイクのまわりを徘徊もした。
しかしなかったのだ。YAMAHAの刻印された鍵は。




もちろんないという結論に達すればそれでよしというわけではない。
スペアキーは家に戻ればあるが、問題は家がここから100キロの彼方にあるということだ。
さらにその100キロ、もう少し詳しく書くと現在地から公共交通機関を問題なく使用できる60キロほど先までの移動手段が徒歩以外ないということだ。

バス停の存在はあったはずだと思った。

確かにあった。バス停はあった。
しかしそのバス停は萌えっ子フリーきっぷで有名な沿岸バスのバス停で、1日1往復というまさに僻地の公共交通というものだった。
あるだけマシさ。確かにそうだろう。公共交通機関がなくなった場所を知っているし、我が僻地でも減便こそすれまだある。

とはいえ今現在の自分にとっては何の役にも立たない。
様々な案が頭の中に浮かんでは消えていく。タクシー、ロードサービス、誰かを呼ぶか…など。
だがしかし、自分は救われた。
公言することはできないが、他者の善意によって救助された。
ご覧になっているだろうか?
もしそうであるならこの場でもお礼を申し述べたい。
ありがとうございます。無事に戻れましたと。



その日の内に自宅に戻れた。
オートバイを置いてきたが戻ることはできた。
帰路の途中も帰宅してからも、あまり考えることは出来なかった。
この出来事は今後も自分のオートバイ生活に大きな影響を与えるだろう。
それだけは間違いなかった。


今日中にオートバイを引き取りに行く気でいたが、それも出来なかった。
いや、もしも方法を選ばなければ可能だったが、自分が採った方法は頼まず頼らずに済む方法だった。
人の善意は高い。悪意はさらに高い。


もしも軽トラックがなければ札幌発16時10分のバスに乗るしか方法がなかった。
しかし軽トラはあるので荷台に積載するという方法が可能となる。
だが自分は積載するためのラダーを持っておらず、固定するためのベルトも持ち合わせがなかった。
でもそれらは購入することが可能だ。
仕事を終えて軽トラでラダーとベルトを購入してからオートバイを積み込みに行けばいい。
今まで一度もやったことのないことだが、見たことはある。
バイク屋で、ロードサービスで。

そうと決まればラダーの確保から始めた。
電話で最寄りの工具屋に確認し、在庫を確保。
翌日に電話でオートバイをその日に引き取りに行けなかった事を置いていった場所の方に謝罪し、本日(4日)夜遅くに引き取りに行く旨申し伝えた。

自分が名前すら伝えていなかったことを恥じた。
そして先方から引き取る時間は雨風が強くなることを教えていただいた。
台風の直撃。
やったことのない軽トラへのオートバイの積載作業を、台風の直撃下でおこなう。
いや、台風はこない。大丈夫だと言い聞かせる。
もちろん自分のような人間の妄想に過ぎない。
特に今のような状況下では、物事はただ悪い方へ向かうだけだ。



仕事が終わり風は強い。
自転車で坂を下っているのに風で減速して前に進まないほど強い。
しかし予定に変更はなかった。
(運が悪いので当然)渋滞している並走車だらけの殺伐とした国道をぶっ飛ばしラダーとタイダウンベルトを購入。
お店の方にすぐに使うので梱包はすべて投げ捨てて下さいと無茶なことを申し伝える。
このめんどくさいオーダーのツケもいずれ高く付くことになるだろう。
裸になったラダーを荷台に放り込み、途中で給油して1回だけセコマで休憩とって先を急いだ。
焦れていたというのもあるが、風が強くなってきてオートバイが倒れていないか気が気ではなかったのだ。
天気予報を確認すればよかったのだろうがその時間すら惜しかった。

遠くで風が鳴っている真っ暗な中にオートバイは立っていた。
もう出発してからかなりの時間が経過している。
幸いまだ雨は降っていない。小雨は降ったりしているがそれも今は止んでいた。
ここからは焦らない。というよりオートバイが無事で安堵してしまった。

荷台の端に慎重にラダーを掛けてまずは自分が乗ってみる。
アルミ製のラダーは思ったよりも安定感がない。
いつも行くバイク屋の鉄製平面ラダーのようなどっしりした感じではない。
そして自分はラダーを一本しか買っていない。
乗せる時はエンジンを掛ければ済む。下ろす時はガレージに着いた時で足場の確保ができるので買わなかったのだ。
セールの時にもう一本買うことにしている。緊急時でエンジン始動が約束されてなければ二本買っていた。

念の為持ってきた脚立をラダーの脇にセットして、何度かエンジンを掛けずに積み込もうとするが失敗する。
このため当初の予定通りエンジンを始動して荷台へと積載した。
しばし荷台の上のオートバイと格闘して位置をずらし、あおり板に前後輪を当ててタイダウンベルトを掛ける。
ベルトは3本用意したがサブベルトはあったほうがいいと痛感した。今度買ってこよう。

TW荷台に乗る

ベルトの掛け方は間違っているのでありがたいご指摘はご遠慮願いたい。
掛ける場所はまあ大丈夫だ。サスのインナーチューブに掛けたらダメなことは知っていた。
よく考えたら4メートルのラチェットタイダウンを2本買ったので繋いでシートの上に掛けてしまえばよかった。
ともかく固縛は成功して車体はびくともしなかったので、鍵を紛失した現場まで移動してもう一度探してみた。
当然見当たらずゆっくりと現場を後にすることとなった。
ここからは50キロ以上で走ることはないし、急の付く動作どころか加速と減速時のショックもクラッチを慎重に操作して消していかなければならない。
何しろ初めてやった作業で自分がやっているのだ。まるで当てにならない。


今来た道を戻る。
ツーリングではないのでそれでいい。
札幌が近くなるに連れて天気は悪くなっていく。
スマホで天気を確認すると南から台風が接近していた。
ならば仕方ない。台風の方に向かっているのだから。

仕事が終わってからずっと動き続けていたので限界に達した。
R337のセコマで食料を買って休憩を取る。
もう少しだ。だが帰宅してから下ろすまで油断できない。
セコマのポテトサラダがやけにうまかった。ああ、こいつは空腹だけが原因じゃない。本当にうまい。味がちょっと濃いが。自分は全体的に薄味が好みだ。

食べ終わったら台風の直撃を受けていた。暴風域に入ったらしい。
ワイパーを最速にしても間に合わないほどの雨と、木がなぎ倒されるほどの風の中、勘弁してくれと思いながら軽トラを走らせた。
台風の最中軽トラにオートバイを積み込んで移動しているやつなんてそうそういるもんじゃない。
ごォーっと風が吹いて車体が揺れる度に行きた心地がしなかった。


最後は横から殴りつけるような雨の中、ラダーは滑るって事を勉強しながら無事にオートバイを着地させた。
作戦開始から約6時間後のことだった。
台風に付けられた名前はチュービー。台風21号。
今回の出来事はこの台風の名前から付けてみた。
諸兄も出先での鍵の紛失にご注意を。願わくばそんな間抜け野郎は自分ひとりでありますように。

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